建築鉄骨の骨組みや構造部材として欠かせない「H形鋼(H鋼)」について、現在主流となっている材質の種類、それぞれの素材違いによるメリット・デメリット、そして製材・製作管理における精度の許容範囲(JIS規格およびJASS 6)までを体系的に解説します。
1. H形鋼で主流となっている材質・鋼種
建築分野において、現在H形鋼として主流に使用されている鋼種は大きく分けてSN材とSS材の2つです。
① SN材(建築構造用圧延鋼材)
現在の建築鉄骨において、主要構造部(柱・大梁など)の主流規格となっているのがSN材(SN400B、SN490Bなど)です。 1995年の阪神・淡路大震災を契機に普及が進んだ規格で、耐震設計を前提に降伏比の上限規定や板厚方向(Z方向)の割れ防止性能、溶接性の担保(炭素当量制限)などが厳密に規定されています。
SN400B: 一般的な中低層建築の梁・柱などで最も広く使用される標準強度鋼材。
SN490B / SN490C: 高層建築や大スパン部材など、より高い強度と靭性が求められる部位で使用される高強度の鋼材。
② SS材(一般構造用圧延鋼材)
昔から広く流通している一般的な汎用鋼材がSS材(SS400など)です。 コスト面や流通性に優れますが、耐震的な降伏比コントロールや溶接性の厳格な保証規定がないため、現在の建築構造設計では小梁・胴縁・母屋・補強材などの二次部材での使用が主流となっています。
※なお、橋梁やプラント等の構造物ではSM材(溶接構造用圧延鋼材)も使われますが、一般的な建築構造フレームではSN材への指定変更が標準的です。
2. 素材(鋼種)違いによるメリット・デメリット
使用する鋼種や強度の区分によって、設計・施工・コスト面での特徴が異なります。
鋼種主な用途メリットデメリット
SS400二次部材、仮設材、小梁など
・市場の流通量が非常に多く入手しやすい
・鋼材コストが安価
・一般的な切断・穴あけ加工が容易
・降伏上限の規定がないため主要構造部(耐震フレーム)には使いにくい
・厚板での溶接信頼性がSN材に比べ劣る
SN400B主要構造部(柱・大梁)
・建築専用規格のため耐震性能・塑性変形能力が高い
・溶接性が保証されており施工トラブルを防げる
・SS400に比べ鋼材単価がわずかに高め
・二次部材用途には性能的・コスト的にオーバースペックになる場合がある
SN490B大スパンの梁、高層部の柱など
・強度が高いため、部材断面を小さく・薄く設計可能
・建物の軽量化や空間の広域化に対応できる
・単価が比較的高価
・高強度なため、曲げ加工時や溶接施工時に適切な熱管理が必要
3. H形鋼精度の許容範囲(JIS規格およびJASS 6)
H形鋼の精度には、製鉄所で圧延加工された段階でのJIS規格(原質寸法許容差)と、鉄骨ファブリケーターで切断・溶接加工等を行った後のJASS 6(製品加工精度)の2段階の許容範囲が存在します。
① 製材段階でのJIS規格(JIS G 3192)における寸法許容差
製鉄所で圧延・成形された直後のH形鋼そのものに適用される寸法精度の限界値です。
高さ(H)の許容差:
Hが400mm未満: ±2.0 mm
Hが400mm以上 600mm未満: ±3.0 mm
Hが600mm以上: ±4.0 mm
フランジ幅(B)の許容差:
Bが200mm未満: ±2.0 mm
Bが200mm以上: ±3.0 mm
フランジ・ウェブの厚さ許容差:
板厚に応じ ±0.7 mm 〜 ±1.5 mm 程度
フランジの直角傾き(偏心):
フランジ幅Bの 1.0% 以下(または 1.5 mm 以下)
② 鉄骨加工段階でのJASS 6(建築工事標準仕様書・鉄骨工事)の許容範囲
JASS 6(日本建築学会)では、切断・穴あけ・組み立て溶接を行った「製作製品」に対して、品質目標となる管理許容差と、合格の限界値となる限界許容差を設定しています。
部材長(全長・全高)の許容差:
管理許容差: ±2.0 mm
限界許容差: ±3.0 mm
仕口間距離(ボルト穴群相互の間隔):
管理許容差: ±1.5 mm
限界許容差: ±2.0 mm
端部仕上精度(直角度 e):
管理許容差: 1.0 mm 以下(かつ e ≦ e0/1000)
限界許容差: 1.5 mm 以下(かつ e ≦ e0/750)
部材の曲がり(軸線の狂い):
管理許容差: 全長 L/1000 以下(最大 7.0 mm)
限界許容差: 全長 L/750 以下(最大 10.0 mm)
まとめ
現在の建築鉄骨においては、主要構造部に耐震性と溶接性に長けたSN材(SN400B/SN490B)を採用するのが標準的であり、補助的な部材にSS400を組み合わせる手法が主流です。
また、製作時にはJIS規格による材料受け入れ検査(ミルシート確認)から始まり、JASS 6に基づく加工・製品検査を実施することで、建物の安全性と高精度な納まりが担保されています。